YESTERDAY

ソウイウコト

『赤天の美味い店を知ってるんだけど』
以前、そう誘われたことがある。
カウンター席に居合わせた、見知らぬ男性客だった。赤天は島根県の味(浜田市特産)。魚のすり身に唐辛子を 練り込み、パン粉をまぶして揚げている。日本酒にはよく合うと思う。しかし深夜のお洒落なカクテル・バーで、赤天は果たして正解か。
『一緒に、行きませんか』
その店は、今夜はもう閉まっているという。それならと丁重に断ると、笑うその人は楽しそうだった。
『美味いと思うんだけどなあ……』
もしも、私が行きたいと言ったなら、きっと困った顔をしただろう。名前も知らない相手に対し、いつ何処で待ち合わせをして、なんてとても面倒だ。だから駄目で良い、けど、もしかしたら…そんな遊びがしたいだけ。たとえ自分から誘っても、答えはいつも決まっている。
『 じゃあ、また今度』
――― ソウイウコトデショウ?

2019/7/24

さよなら、ピート君

ウィスキーといえば、ピートの香り。
燻製を作るのにも似て、ウィスキーの原料(麦芽)にピート(草炭)を焚いて、香りづけを行っている。このスモーキーフレーバーを、特徴とするウィスキーは多い。
その香りが、私は苦手。
だからウィスキーがなかなか飲めない。カクテルの女王マンハッタンも、ウィスキー・ベースで作るから、そのピート香だけは鼻に残る。多くの愛好家がいるこの香りに、これでは酒飲み失格だ。そう、私は大酒飲みじゃない!
スカラ座の人に相談したら、水割りにしましょうか? とも言ってくれた。しかし、それでは香りのする液体が、倍増するだけなのでつらくなる。そこで、「ピートの香りがしないウィスキー」を注文した。バーボンが出てきた。
カウンター席で独り、バーボン・ウィスキーをストレートで。
…… 私は、酒飲みじゃない、はず。

2019/7/11

りくえすと。

私は、歌が上手くない。
どれくらい上手くないかと言うと、いま歌っている音程を、どうしたら良いかわからなくなるくらい。わかってる、人はそれを音痴と呼ぶ。ところが先日、居合わせた客から、カラオケをリクエストされてしまう。
スカラ座では、カラオケを歌うことが出来る。歌い放題のコースもあれば、一曲だけの選曲もできる。リクエストしてきた客は男性で、断っても勧めてきた。仕方なく、私も一曲入れてしまう。歌いだした瞬間に、男は店を出て行った。
… 逃げたな。
外から、携帯電話をかける声がする。お店の人が、懸命に手拍子してくれる。わかってる、私が音痴なのは知っている。最後まで歌い終えた頃、男は店に戻って来た。
ダイキライ。

2019/6/29

美味しい、スカラ座

スカラ座の料理は美味しい。
お店の人が、いつも手作りしてくれる。時には新人さんが、オムライスを作る練習してたりする。洋風のナポリタンやサラダに加え、ナシゴレンや出雲焼き蕎麦などもあって楽しい。
そのためか、お昼のランチタイムが忙しい。喫茶店としての表情もある。また夜が遅くても、ちゃんとご飯が食べられる。そういうわけで、数人でBOX席に座り、フードメニューを注文する男性客を、私はよく目にしたりする。そして、彼らは食べて、帰ってしまう。
…… なぜ、帰る。
車で来ているから、とか。明日も仕事だから、とか。待ってくれている人がいるから、など理由はたくさんあると思う。それにしても、こういう店に来て、ご飯だけ食べて帰るのはどうしてか。私なら、帰らない。
男性諸氏、夜はまだ長い。

2019/6/12

マルガリータのお話

マルガリータは、可愛いカクテル。
ソルトでスノー・スタイルにしたグラス、その名はあるバーテンダーの、亡くなった恋人の名前だという。
その可愛いカクテルが、無色透明だということが、私には少し残念だ。亡くなった恋人の、純潔を表しているのだろうか。それはそれで十分可愛い。しかし、私の中のマルガリータは、どうしてもピンク色なのだ。
もし彼女が生きていたならば、マルガリータはピンクになったろう。そんな勝手な妄想をして、私はお店で頼んでみた。マルガリータの味はそのままに、色をピンクにしてほしい。冷たく透き通る、淡いピンク。そんなつまらない我がままも、スカラ座の人は叶えてくれる。
だから今宵も、ピンクのマルガリータ。
スカラ座に来られた際は、是非そうオーダーしてみて下さいね。

2019/5/27
2019/12/31